日本語文法『連濁』 日本語にはもともと濁点がつかない語が別の語と一緒に使われると濁点がつくという現象があります。これを連濁とかsequential voicingと呼んでいます。正確には語と語とがつながったときに後ろの語のある音が有声化することです。具体的に考えるために次の例をみましょう。 (1) 雨+合羽 (2) 雨合羽 (1) は「雨」(あめ)という語と「合羽」(かっぱ)という語です。この語が繋がると(2) の「雨合羽」となりますが(あめかっぱ)と発音するわけではありません。(あまがっぱ)と「合羽」の部分の(か)に濁点がついて(がっぱ)となります。このような現象を連濁とかsequential voicing と呼んでいます。人名の「朝妻」さんも(あさつま)さんではなくて(あさづま)さんです。連濁が起きます。次の例をみてください。 (3) 山桜 (4) ガラス戸 (3) の「山桜」は「山」(やま)と「桜」(さくら)という語が合わさっていますが発音は(やまさくら)ではなく(やまざくら)となります。連濁が生じます。また(4)の「ガラス戸」も「ガラス」と「と」が合わさっていますが(がらすと)ではなくて(がらすど)となります。連濁が生じます。しかし連濁が生じないものもあります。次の例を考えて見ましょう。 (5) 扇形 (6) ガラスケース (7) 山川 (5) は 訓読みの(おおぎがた)ではなくて音読みでは(せんけい)と言います。扇(せん)と形(けい)とが合わさってできています。しかし(せんげい)と連濁は生じません。(4) の「ガラス」も「ガラス」と「ケース」(けーす)とが合わさってできた語ですが、(がらすげーす)にはならず(がらすけーす)となります。また(7)も「山」(やま)と「川」(かわ)とが合わさると(やまがわ)になる予想がたちますが実際は連濁が生じず(やまかわ)となります。どのような規則が働いているのでしょうか。ちょっと考えるだけで(5)扇形は漢語読みで訓読みとは異なります。また(6)の「ガラスケース」も後半の語「ケース」は外来語ですから「ガラス戸」とは異なります。これらから連濁は大和言葉に生じる現象であると仮説を立てることができます。そうなると(5) (6) で連濁が生じないのは説明できますが、(7)の「山川」が(やまがわ)ではなくてなぜ(やまかわ)なのか説明ができません。「山川」や「白黒」のように前半部分が後半の語を単に修飾するだけでなく、対等な関係になっている複合語の場合も連濁は生じません。 このような連濁はかつて本居宣長によって略论されていましたが、実際に詳細な略论がなされたのはアメリカ人によってです。Lyman (1894)は「複合語の第2要素に有声阻害音が含まれる場合には連濁は起こらない」という制約を設けることができると略论しています。また最近では Ito & Mester (1986) がより普遍性の高いObligatory Contour Principle 「必異原理」でもって連濁を略论しています。この原理は日本語の連濁だけでなく、各言語固有の規則はもっと普遍的な原理に還元でき、人間の音韻表示に関する基本原理で広く連濁を捉えることができるとしています。このように日本語の略论も日本人によるよりは、外国の探讨者によって、より詳細な略论がなされているのが現状です。 Ito & Mester (1986) の OCP の原理を使うと、連濁が英語の directが名詞になるとdirection になるのに digest の名詞は同じdigestionと-ionという接尾辞をつけるのに発音が異なるのがなぜかと共通しているということがわかります。つまり日本語の連濁は英語の-ion の発音と同じ原理が働いているというのがわかります。どのようななるかは皆さんで考えてみた下さい。 参考図書 Ito, Junko, and Armin Mester. 1986. The phonology of voicing in Japanese: Theoretical consequences for morphological accessibility. Linguistic Inquiry 17: 49-73. Lyman, Benjamin Smith. 1894. Change from surd to sonant in Japanese compounds. Philadelphia: Oriental Club of Philadelphia. ,日语论文,日语毕业论文,日语论文 |