a. 「奈良の仏像について調べる宿題があるんです。」(生徒) b. 「それで、いろいろ伺いたいことがあるんですが、いいですか。」(生徒) c. 「どうしてJAPANに来られたんですか。」(生徒) いずれも「んです」という表現ですが、この課は会話ですから、以下の文もすべて「んです」に置き換えることはできませんか。 d. 「でも、どうしてこの寺の仏像を調べようと思ったのですか。」(僧) e. 「目は閉じているのではなくて、見えないのです。」(僧) f. 「それから、12年後にJAPANに来られたのです。」 (僧) ここでの用法も含めてh明してください。 答: この「の(ん)だ」は、「映画を見るのが好きだ」のように名詞節を作る「の」と違って、「の」が独立性を失っての(ん)だという形で、話し手の気持ちを表します。ふつう書き言葉では「のだ」、話し言葉では「んだ」が使われる傾向にあります。上記の質問は、話し言葉だから「んです」でもいいのではないかという趣旨の質問だと思います。確かに文法的には、すべて「んです」にしても間違っていません。ただ、この場面は、高校生が僧侶にインタビューし、僧侶がそれに答えて、鑑真のことを説明する場面です。僧侶がきちんと話しているイメージを表すために、僧侶の発話には「のです」を多くしました。「のです」を用いると、丁寧さが加わるからです。一方、高校生の発話では、高校生の話し方に近づけ、その自然さを出すために「んです」を用いました。「のです」と「んです」を使い分けることによって、両者の気持ちや雰囲気を出しました。 「の(ん)だ」の用法について見てみましょう。
1.話題の切り出し 新たな話題を提出する前提やきっかけを切り出すために、その話題の背景を表します。aがその用法にあたります。生徒がこれから僧侶に奈良の仏像について聞きたいという、話を切り出す役割があります。
2.説明や理由づけ 「の(ん)だ」の文は、前提になる発話や状況について、話し手が「説明」や「理由づけ」をする機能があります。b、e、fがそれにあたります。eでは、「目を閉じているのが不思議」だという前提の発話があって、それに基づき「目は閉じているのではなくて、見えないのだ」と説明する機能として「のだ」が使われています。
3.聞き手に説明を求める 例えば、「どうして~のですか」という聞き方で、話の内容やその場の状況などに関して、聞き手に何らかの説明を求めるという用法があります。cとdがそれにあたります。ただし、この場合、気をつけなければならないことがあります。例えば、「先生は今年、中国に行ったんですか」という形を話の前提がないのに使うと、中国に行ったかどうかを疑う気持ちを含むことがあります。それによって、聞き手に不快な感じを与えたりします。また、音声的にも「の(ん)ですか」の部分を強調すると、詰問しているように聞こえたりするので気をつけましょう。
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