日本語文法『受動態』 られる 日本語の「られる」は受動だけでなく自発や可能などいろいろな意味を表すことができます。英語の受動態は項の増減からみると目的語を主語に昇格させて項を減ずる働きをしていますが日本語の「られる」は項を減ずる場合にも使われますが、項をさらに付け加えるような場合にも援用されます。どうも日本語の「られる」は英語のbe + 過去分詞形で表される受動態とは1対1に対応していないことがわかります。このような特徴を持った「られる」を具体的に見てみましょう。 (1)
(1b)は(1a)の受動態です。(1a)の主語である「ケン」と目的語である「リサ」を入れ替えたようなものです。この場合、(1a)で主語であった「ケン」は斜格を帯びていて省略が可能です。(1c)のように「ケンに」を省略しても文法的な文ができます。このような「られる」は英語の受動態とほぼ並行的です。ほぼと条件をつけているのは日本語では(1a)を受動態にする場合は(1b)のように主語に昇格した名詞句は一般的に「は」格で表すのが一般的であるからです。英語ではこのような区別を形態的には行いませんからまったく英語と日本語とが並行的であるということはいえません。つぎに項を増やす次のような「られる」を考えてみましょう。 (2)
(2a)は名詞句を1つとる1項述語です。英語の場合は1項述語で表現されている文は自動詞ですから受動態にはすることができません。しかし日本語では別の項を追加して(2b)のように表現することができます。間接受動態とか被害受身といわれるものです。このような「られる」は「に」格で表されている名詞句を「によって」に置き換えると非文が生じてしまいます。(2c)が非文なのは(2b)の「に」格で表されていた名詞句が「によって」に置き換えられてしまったためです。さらに純然たる間接受動態と呼ばれる次のような例を考えて見ましょう。 (3)
(3b)は「リサ」と「ケンの頭」の2つの項からなる能動態の文です。この「ケンの頭」の所有格の「ケン」を主語にもってきたのが(3b)の受動態です。「ケン」と「ケンの頭」は全体対部分の関係になっています。一方、(3d)は「ケン」と「ケンの本」との関係で全体対部分の関係にはなっていません。「ケンの本」は単にケンの所有物であるだけです。これらいずれも「られる」で表されているのですが、項の減少は生じていません。このように日本語の「られる」はいろいろなものを表すことが可能です。英語のbe + 過去分詞と完全に並行的ではありません。とは言ってもそのような表現措施が英語や他の言語にないというわけではありません。必ず(2b)や(3b)の表現形式はそんざいするのです。単に英語でそのような表現をbe + 過去分詞で表現しないというだけの話なのです。他の言語でも同じ事がいえます。 |