目次 序章 課題設定の理由 第1章 課題解明の措施 序章 課題設定の理由 卒業論文のテーマを決めるとき、私の頭に真っ先に浮かんだのは「吉本ばななの著作を扱いたい」という思いだった。 私が吉本ばななの著作と初めて出会ったのは、中学生の頃だった。当時、私の周囲では集英社のコバルト文庫や、講談社のティーンズハートが大流行していて、私も友達と本を貸し借りしては、登場人物について「○○がかっこいい」とか、「××のほうがいい」などと騒いでいた。そうして、主人公の女の子と自分を重ね合わせて、空想の中での恋愛を楽しんでいたのだ。 そんな騒ぎも落ち着いてきた頃、ふと立ち寄った書店で目にしたのが『キッチン』だった。表紙のかわいさにひかれて手にとってみると、作者の名前になんとなく聞き覚えがある。「そういえば、少し前に話題になってたなあ」と思い、読んでみることにしたのだ。それが、私が吉本ばななにハマるきっかけだった。その当時の私は、コバルト文庫などではなんとなく物足りない気がするけれども、文学史に出てくるような、「昔の人が書いた本を読むのもしんどいなあ」と思っていた。そんな私が、「これだ」と思えたのが吉本ばななの著作だったのである。“昔の人”が書いた本とは違って、使われている言葉が中学生の私にも読みやすく、話の内容も、それまで読んでいた本とは違い、登場人物の表面的なかっこよさや優しさではなく、その人の強いところも弱いところも合わせた、生き方のようなものに、感動したり、共感したりできるように思えた。 『キッチン』と出会ってから、私はそれ以前に出ていた著作を次々に買い集め、新しい著作を心待ちにするようになった。それが現在まで続いているのである。中学・高校・学院と、長く付き合ってきた吉本ばななの著作を、この卒業論文の中で新しい視点で見直し、新たな魅力を発見することができれば、と思い、吉本ばななの著作を扱うことにした。 次に、どのように見ていくかについてだが、時枝誠記氏が『文章探讨序説』(明治書院)の中で「文章における冒頭は、建築における基礎工事と同様に、すべてのものが、その上に積み重ねられる基礎になり、出発点になるといふ意味で重要である」「基礎工事を見ることによって、その上に積み重ねられる建築の全体を想見することが出来るやうに、冒頭によつてその表現がどのやうに展開するかの大体の方向と輪郭とを予想することが出来るのである。従つて、冒頭の正しい理解は、それに続く表現を、正しく読みとるための原動力となるものである。」と述べているように、文章を読んでいく上で冒頭部分は重要な役割を果たしているのではないかと考えた。また、森岡健二氏が「煩雑で大げさな導入は、かえって読者をうんざりさせ、読む意欲をなくさせてしまう。導入の部分で、まず読者の注意と興味を喚起して、読みたいという欲望を起させることが大切である。」(『文章構成法』至文堂)と述べているように、書き手はまず冒頭で、読者をひきつけなければならない。吉本ばななの著作は多くの人に読まれているが、その理由の1つとして「さーっと読める」(平田俊子氏『大ざっぱに見た吉本ばなな』)ということが挙げられる。これは、「冒頭によつてその表現がどのやうに展開するかの大体の方向と輪郭とを予想することが出来る」ことも、要因の1つになっているのではないかと私は考えた。 |