吉川 武時
自動詞、他動詞、受身、使役というのは ボイス(Voice 態)に関する用語である。 ☆有対動詞・無対動詞
ある動詞は「立つ(自動詞)-立てる(他動詞)」のように自動詞と他動詞が対応している。これを有対動詞と言う。その自動詞の方が有対自動詞で、他動詞の方が有対他動詞である。 また「歩く(自動詞)」や「読む(他動詞)」のように対応する他動詞や自動詞を持たない動詞がある。これを無対動詞と言う。「歩く」は無対自動詞で、「読む」は無対他動詞である。これをそれぞれの使役形とともに表にすると、次のようになる。
自動詞 自動詞の使役形 他動詞 他動詞の使役形 有対動詞 立つ 立たせる 立てる 立てさせる 無対自動詞 歩く 歩かせる
無対他動詞
読む 読ませる ☆使役の構文 使役の構文について確認しておこう。 他動詞の使役文 「学生が本を読む」ということを先生が命じるとすると、 先生が 学生に 本を 読ませる。 となる。「読ませる」は「読む」の使役形である。「学生が」は「学生に」となる。「本を」はそのままである。 自動詞の使役文 「子どもがおつかいに行く」ということを親が命じるとすると、 親が 子どもに おつかいに 行かせる。 あるいは 親が 子どもを おつかいに 行かせる。 となる。「行かせる」は「行く」の使役形である。「子どもが」は「子どもに」あるいは「子どもを」となる。「子どもに 行かせる」をニ使役文、「子どもを 行かせる」をヲ使役文と言う。自動詞の使役文にはニ使役文とヲ使役文があるわけである。ただし、動詞によってはヲ使役文しか用いられない場合もある。(『日本語文法入門』p.192) ☆自他の対応のある他動詞と自動詞の使役形の使い分け 「立てる」と「立たせる」をどう使い分けるのか、「並べる」と「並ばせる」をどう使い分けるのか。つまり、「有対他動詞」と「有対自動詞の使役形」の使い分けはどうなっているか、という問題である。この問題は非常に難しい。「立てる」「立たせる」と「並べる」「並ばせる」を例に考察してみたが、明白な結論は出なかった。 問題となる形の位置を体系の中で確認しておこう。見やすくするため、左側に自動詞、他動詞をまとめて置き、右側にそれぞれの使役形をまとめて置く。
自動詞 他動詞 自動詞の使役形 他動詞の使役形 有対動詞 立つ 立てる 立たせる 立てさせる 並ぶ 並べる 並ばせる 並べさせる これらの形を使った次のような文が考えられる。 他動詞文 ヲ使役文 ニ使役文 子どもを立てる 子どもを立たせる 子どもに立たせる 子どもを並べる 子どもを並ばせる 子どもに並ばせる 次に、これらの文の適否を検討してみよう。 |