韓国では、1997年のアジア通貨基金以降、長期間の不景気により、韓国の20代は恋愛、結婚、出産をあきらめた「三抛(サンポ)世代」と呼ばれていたが、最近では、... 韓国では、1997年のアジア通貨基金以降、長期間の不景気により、韓国の20代は恋愛、結婚、出産をあきらめた「三抛(サンポ)世代」と呼ばれていたが、最近では、恋愛、結婚、出産に加え、人間関係、家、希望、夢、健康、外見の9つをあきらめた、「九抛(クポ)世代」とも呼ばれるようになった。日本においても、1991年のバブル経済崩壊以後、現在に至るまで長期の景気停滞により、物を買わず、消費欲がない日本の20代を「さとり世代」と呼ぶようになった。 上記のようにはっきりとした特徴があるにもかかわらず、日韓20代の消費に関する価値観(以下、消費価値)についての実証的な研究はほとんど行われていない。そこで、本研究では日韓20代の消費価値についての研究を行う。 日本では、20代の消費価値に影響を与える要因の一つとして、20代の親世代である50代の消費価値が関係しているという先行研究が存在する。そこで、本研究では日韓50代の消費価値も調査し、50代の消費価値が20代にどの程度影響を与えるのかについても研究を行う。 さらに、本研究では、日本と韓国の消費価値はどのような下位尺度から構成され、どのような傾向をあらわすのか、また、日韓20代および50代の各グループ内における調査対象者の特性、経済的特性による消費価値の下位尺度の平均値の差の略论を行った。最後に、日韓20代および50代の国家間、世代間における消費価値の下位尺度の平均値の差を略论した。 日韓20代および50代の消費価値の比較を行うために、定量的研究を行った。日韓両国の首都である東京23区およびソウル特別市を調査対象地とし、質問紙法を用いてオンラインアンケート調査を行った。合計400部の有効回答をデータ略论に使用した。本研究により明らかにする「日本と韓国の20代・50代消費者の消費価値比較研究」の略论結果は次のとおりである。 まず、日本と韓国の消費価値に関する下位尺度を略论した結果、日韓両国において同一の下位尺度が構成され、共同体志向価値、他人志向価値、効用志向価値、自己表現志向価値、自律志向価値、安全志向価値、低価格志向価値、審美志向価値、快楽志向価値、革新志向価値の合計10の因子が見い出された。 次に、日韓20代および50代のそれぞれのグループ内における、消費価値の下位尺度の平均値の差の略论を行った。略论の結果、韓国の20代の調査対象者の特性では、性別において消費価値の下位尺度の平均値に有意な差がみられた。性別は、革新志向価値においてのみ平均値に有意な差がみられ、アーリーアダプターが多い男性の平均値が高かった。経済的特性では、世帯全体における一ヶ月の平均所得額において、消費価値の下位尺度の平均値に有意な差がみられた。世帯全体における一ヶ月の平均所得額は、安全志向価値と低価格志向価値において平均値に有意な差がみられた。安全志向価値では、低所得層と高所得層の平均値が高く、低価格志向価値は、平均所得額が最も低いグループの平均値が高かった。 韓国の50代の調査対象者の特性においては、性別のみ消費価値の下位尺度の平均値に有意な差があり、下位尺度中、安全志向価値のみ平均値に有意な差がみられ、女性の平均値が高かった。これは、家族のために、安全志向価値を追求したものと推測される。経済的特性では、世帯全体における一ヶ月の平均所得額、個人的な一ヶ月の平均支出額において消費価値の下位尺度の平均値に有意な差がみられた。世帯全体における一ヶ月の平均所得額は、経済的な余裕があまりない中間所得層が、安全志向価値において低い平均値を示した。個人的な一ヶ月の平均支出額は、共同体志向価値と低価格志向価値において平均値に有意な差がみられた。共同体志向価値では、経済的な余裕があり、環境にやさしい製品や公正な流通をしている製品を利用できる、15万円以上‐20万円未満のグループの平均値が高かった。低価格志向価値では、経済的に余裕がある20万円以上のグループのみ低い平均値を示した。 日本の20代の調査対象者の特性においては、勤労形態のみ消費価値の下位尺度の平均値に有意な差がみられた。勤労形態は、他人志向価値と効用志向価値、革新志向価値において平均値に有意な差がみられた。他人志向価値と効用志向価値では、不安定な地位・収入であるパート・アルバイト・契約社員・派遣がブランド品の購入が難しい状況にあることを示唆した。経済的特性では、世帯全体における一ヶ月の平均所得額、世帯全体における一ヶ月の平均支出額、個人的な一ヶ月の平均支出額のすべてにおいて消費価値の下位尺度の平均値に有意な差がみられた。世帯全体における一ヶ月の平均所得額は、他人志向価値と革新志向価値において平均値に有意な差がみられた。他人志向価値では、平均所得額が多いほどブランドを選好することを示唆した。革新志向価値では、平均所得額が高いグループが低いグループに比べて革新志向価値を追求し、最新製品を選好するものと推測される。世帯全体における一ヶ月の平均支出額は、共同体志向価値と他人志向価値、効用志向価値、審美志向価値、革新志向価値で平均値に有意な差がみられ、その5つの価値すべてにおいて、50万円以上のグループの平均値が高かった。これはこのグループでは経済的余裕があり、ブランドや性能、安全、健康、審美性を追求し、また、環境にやさしい製品や最新製品の購入が可能であることが推測される。個人的な一ヶ月の平均支出額は、自己表現志向価値と審美志向価値で平均値に有意な差がみられた。自己表現志向価値では、世間体を気にする5万円以上‐10万円未満および経済的余裕がある20万円以上のグループの平均値が高かった。審美志向価値においても、世間体を気にする5万円以上‐10万円未満、10万円以上‐15万円未満のグループおよび経済的余裕がある20万円以上のグループの平均値が高かった。 日本の50代の調査対象者の特性では、性別、婚姻の状態、勤労形態のすべてにおいてそれぞれ消費価値の下位尺度の平均値に有意な差がみられた。性別は、自己表現志向価値のみ平均値に有意な差がみられ、先行研究とは違い男性の平均値が高かった。婚姻の状態は、自己表現志向価値と低価格志向価値、快楽志向価値で平均値に有意な差がみられた。自己表現志向価値と快楽志向価値では既婚の平均値が高い一方、低価格志向価値では未婚の平均値が高かった。これは既婚の場合、同居している家族や配偶者の影響で自己表現志向価値と快楽志向価値を追求し、未婚の場合は1人世帯で所得が多くないため、低価格志向価値を追求するものと推測される。勤労形態は、審美志向価値と快楽志向価値で平均値に有意な差がみられ、その2つの価値において、自営業者の平均値が低かった。自営業者は社会的に安定した勤労形態であるものの、審美志向価値と快楽志向価値を追求しないことが明らかになった。経済的特性においては、世帯全体における一ヶ月の平均所得額、世帯全体における一ヶ月の平均支出額、個人的な一ヶ月の平均支出額のすべてにおいて消費価値の下位尺度の平均値に有意な差がみられた。世帯全体における一ヶ月の平均所得額では、自律志向価値と低価格志向価値で平均値に有意な差がみられた。自律志向価値では、経済的に少し余裕がある50万円以上‐70万円未満のグループの平均値が一番高く、経済的な余裕がそれほどない30万円以上‐50万円未満のグループの平均値が一番低かった。一方、30万円未満のグループは、1人世帯が多いため、比較的平均値が高いことが明らかとなった。低価格志向価値では低所得層の平均値が高く、高所得層の平均値が低かった。世帯全体における一ヶ月の平均支出額では、他人志向価値と自己表現志向価値、低価格志向価値、革新志向価値で平均値に有意な差がみられた。他人志向価値では、支出額が一番低いグループの平均値が意外にも高かった。これは世間体を気にしているためと思われる。自己表現志向価値では、10万円以上‐30万円未満のグループの平均値が一番低かった。しかし、10万円未満のグループの平均値は比較的高い値を示した。これは経済的に余裕がないものの、世間体を気にしているためと推測される。低価格志向価値では、低支出層の平均値が高く、高支出層の平均値が低かった。革新志向価値では、高支出層の平均値が高かった。個人的な一ヶ月の平均支出額では、自己表現志向価値と審美志向価値で平均値に有意な差がみられた。これら2つの価値において、10万円以上‐15万円未満のグループの平均値が高い値を示した。これは上流階級の暮らしにあこがれ、それを追求しようとしているものと思われる。 最後に、日韓20代および50代の国家間、世代間における消費価値の下位尺度の平均値の差を略论した結果、下位尺度の10の因子すべてにおいて、平均値に有意な差がみられた。共同体志向価値は、軍事独裁政権や労働紛争を経験した韓国の50代が最も高い平均値を示した。他人志向価値は、バブル経済時に愛用していたブランドを、時代が変わってもそのまま愛用している日本の50代が最も低い平均値であった。また、日本の50代の世帯全体における一ヶ月の平均支出額が10万円以上‐30万円未満のグループの他人志向価値平均値が目立って低く、日本の50代の他人志向価値全体での平均値が下がる要因の一つとなっていることが分かった。効用志向価値は、日韓20代が親世代の消費価値を受け継いでいた。インターネットが発達している韓国の20代および50代が、日本の20代および50代より高い平均値を示した。自己表現志向価値は、周りとの調和を重要視する日本の50代が最も低い平均値であった。特に、日本の50代においては、女性、未婚、世帯全体における一ヶ月の平均支出額が10万円以上‐30万円未満の三つのグループで、自己表現志向価値の平均値が低いことが分かった。自律志向価値は、韓国の20代と50代、日本の20代と50代がそれぞれ似たような平均値を示し、日本が韓国より平均値が低かった。安全志向価値は、年齢による経験の差により、日韓50代が高い平均値を示した。低価格志向価値は、学生の比率が高く、また奨学金の返済等の理由により、韓国の20代が最も高い平均値であった。審美志向価値は、全体的に韓国が日本に比べて平均値が高く、特にスマートフォンを利用している韓国の20代が最も高い平均値であった。快楽志向価値は、日韓20代がインターネット、SNSの影響や、文化水準の高さにより、平均値が高かった。革新志向価値は、独身世帯や子どもと同居していない世帯が比較的多く、若い世代との関わりが薄い日本の50代の平均値が低かった。日本の50代においては、世帯全体における一ヶ月の平均支出額が10万円以上‐30万円未満および30万円以上‐50万円未満の二つのグループで、革新志向価値の平均値が特に低く、日本の50代の革新志向価値全体における平均値が下がる要因の一つとなっていることが分かった。一方、韓国の50代は、同居している子どもの影響を受け、革新志向価値は韓国の20代とほぼ同じ平均値を示した。
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